コペル君の由来はコペルニクス?『君たちはどう生きるか(吉野源三郎)』

コペル君の由来はコペルニクス?『君たちはどう生きるか(吉野源三郎)』
君たちはどう生きるか

今回紹介するのは、『君たちはどう生きるか(吉野源三郎)』です。
今、宮崎駿が同タイトルでジブリ映画を製作中として話題となっている作品です。*1

そんな注目の原作小説を今回は紹介します。

内容

初版は1937年(昭和12年)とかなり古い小説で、児童文学者や雑誌編集長としての実績のある吉野源三郎氏による長編小説です。あとがきによるとこの小説は、『倫理』を扱っている内容とのことで、少年少女へ向けて人として生きる道を説くような内容となっています。

ではその中身についてですが、『コペル君』という今の中学2年生にあたる少年が主人公の物語です。コペル君は学業優秀でスポーツも得意、そしてちょこっとお調子者なクラスでもある程度の人気者です。父親は亡くなってしまいましたが、元々銀行の重役を務めていて、家には女中(家政婦のような人)がいる比較的裕福な家庭です。

コペル君の由来

学校の同級生には、実業家や大学教授の息子など、コペル君同様に裕福な家庭の子供が多い一方で、豆腐屋の貧しい家庭の者などもいて、彼らとのいざこざや友情が中心となったストーリー展開です。全十話のつながりを持った短編からなる小説で、それぞれの短編の終わりには毎回、叔父さんからコペル君へのメッセージが「おじさんのノート」という形で添えられて締めくくられます。『コペル君』というニックネームの名付け親も、その叔父さんであり、かの有名な天文学者コペルニクスから来ています!

コペルニクス
コペルニクスの記念碑(ポーランド,トルン)

コペルニクスと言えば16世紀の偉大な天文学者で、地動説を唱えたことで知られています。

叔父さんが主人公のことをコペル君と呼ぶようになったのは、デパートの屋上で眼下に広がる街の景色を眺めている時の出来事でした。街の景色を眺めていたコペル君は叔父さんとの会話の中で、今見ている景色の中には何千何万もの人が存在していて、自分の知っている家族や友達だけでなく沢山の人が、生活をしているのだということを知ります。

人間は集合体の一部のように振る舞うことも多く、叔父さんが通勤ラッシュで都心に人が押し寄せる様子を潮の流れのように例えたのをきっかけに、コペル君は、

「人間って、まあ、水の分子みたいなものだねえ。」

とつぶやくのでした。

こうしてコペル君が、世界は自分を中心として回っているわけではなくて、世界の中に自分という分子がいるのだと言うことに気づいたことをきっかけに、コペルニクスからとってコペル君と呼ばれるようになったのです。

感想

『星の王子さま』を、より具体的により日本人向けに書き記したような本だと感じました。私はこういった倫理を描いた物語を読むと読了後に大抵いつも、もっと人に優しくそして自分に厳しく生きようと!となんとなく凛とした気持ちになれて好きです。本書は少年少女向けに書かれた内容ではありますが、大人が読んでも十分楽しめる本だと思いました。日々社会人として働く中で忘れてしまいがちな、倫理の原理原則や、ピュアな心を思い出させてくれます。

倫理とは?

 吉野源三郎は倫理を扱った内容であると言っていますが(また上でさらっと倫理の原理原則とか書いてしまいましたが)、はて倫理ってなんだっけ?と恥ずかしながら思ってしまったので改めてちょっと調べてみました。

明鏡国語辞典によれば、

倫理(りん−り)〘名〙
①人として踏み行うべき道。道徳。モラル。
②「倫理学」の略。

とあります。

本書にしっくりくるのは①の人として踏み行うべき道。だと思いますが、何が人として踏み行うべき道か、何が正しいのかといった所は難しい問題だと思います。本書が全て正しいとは限りませんが、それらを判断する材料の一部として、役に立つ小説ではないかと思います。

 印象的だったストーリー

最も印象的だったストーリーは『六.雪の日の出来事』でした。ある雪の日にコペル君たち同級生一同は、運動場で雪合戦をして遊んでいました。しかしそんな中で知らぬ知らぬの内に上級生が作った雪人形を壊してしまい、同級生の北見君がその上級生たちに絡まれてしまいます。北見君をかばう浦川君や水谷君をよそに肝心のコペル君はこわがって物陰に隠れ、上級生の雪つぶてに襲われる彼らを助けにいけないでいるのでした。この一件でコペル君は気を病んでしまいます。

こういった一歩足を踏み出さなければならないのにどうしても勇気の出ない場面、というのは、状況は異なるにせよ誰しもが経験したことがあるのではないかと思います。大人になってもこんな場面はそこら中に転がっていると思いますが、そんな場面に出会ったときに後悔せず行動できるよう、芯となる自分なりの倫理観をしっかりと持って生きていければいいなと思いました。 

全体としてページ数は多いですが、挿絵が多く読みやすい小説になっていると思います。(この点もちょっと星の王子さまに似ていると思います。)

かなり古い作品でありながら今でも多くの人の心に深く残る一冊です。

評価

おすすめ度:★★★★★

コペル君を応援したくなる気持ち:★★★★★

 (番外)宮崎映画への期待:★★★★★

 339ページ

君たちはどう生きるか (岩波文庫)

君たちはどう生きるか (岩波文庫)