完全混合槽モデルで室内換気の最適時間を計算してみた!

完全混合槽モデルで室内換気の最適時間を計算してみた!
カーテン

寒い寒い冬、暖房をかけて部屋の窓は閉めっきりという方が多いのではないでしょうか。でも部屋を閉め切ったままにしておくと室内の酸素濃度が下がって空気がこもったような感じになりますし、浮遊したハウスダストの逃げ場がなく空気は淀んでいきます[1]https://fumakilla.jp/foryourlife/225/。それに加えて冬は風邪やインフルエンザなんかも流行っていますので、もし家族にウイルスを持っている人がいたら空気はどんどん汚れていってしまいます。

そんな汚れた部屋の空気を改善するために特に冬は換気が必要です。とは言え寒くてあまりやりたくはないですよねぇ笑。でもちゃんと効果出る時間は換気をやりたいし。。。

ということで今回はそんなもやもやを解消するために、部屋を十分に換気するにはどのくらいの時間が必要なのかを工学的に計算してみました!

予想

計算を始める前に、まずどのくらいの時間が適切そうかあたりをつけます。無闇に計算を始めてしまうと、単純なミスに気づかずに突拍子もない結果を導いてしまうなんてことにもなりかねかせんので、大事なことです。

ネット情報を漁ってみると、どうやら5〜10分程度が適切との情報が多いようでした。[2]https://www.seikatsu110.jp/electrical/et_ventilation/29068/[3]https://kumaposu.com/ventilation-1/[4]https://garagaragara.com/life/health/2345.htmlということでおそらくこのあたりの時間で充分換気完了というような計算結果になるのではと予想します。

しかしながら私が確認する限りブログなどのネット情報では明確な根拠を示しているものは皆無で、実データ信者の私とっては納得がいかないものがほとんどでした。ここはどうやら私の出番のようです(ニヤ)。

方法

職業柄、工学計算に親しみがあるということもあり、今回は完全混合槽モデル[5]http://www.sk-peo.com/skpeo_t_mixing.htmlという反応工学でよく使用されるモデルを使って計算をしてみました。

完全混合槽モデルとは

完全混合槽モデル

 

ある容積の反応槽にある流体を入れると、それが一瞬で広がって均一になるという近似的な容器のモデルのことを完全混合槽と言います。このイメージを簡単に説明すると、お風呂にぽたっと赤いインクを落とすとそれが一瞬で広がってピンク色になるというようなイメージです。

換気をする時に部屋へ入ってきた空気も、ある程度すぐに拡散して均一になると考えて、今回はこのモデルを適用させてみようと思います。

ガチ勢向けの追加説明:

室内での空気の拡散は、気体の拡散係数\(D\)の値が\(10^{-5}[m^2/s]\)程度となる[6]http://matse.u-fukui.ac.jp/~suzuki/teaching/idogen/2016print6-8p.pdfことから瞬間的には起こらないと考えられますが、室内にはテーブルやソファなど流入した空気を分散させる邪魔板的役割を果たす家具があることから、完全混合槽モデルを適用してもまずまず妥当な結果が得られると思われます。

 

部屋の換気モデル

では上の完全混合槽の考え方を使って部屋の換気モデルを作りたいと思います。そのためにまずは部屋の換気をどの様な条件で実施するかということを具体的に考える必要があります。

窓を開放するのみの場合

まず第一に考えられるのは対角の窓を全開にして空気を入れ替える!というものですが、これでは空気は入れ替わりません。外気の風向きがちょうどよく窓と窓の経路に合致して、程よく風量があるという条件が整っていないと空気は入れ替わりませんし、そもそも不確定要素が多くモデル計算が困難です。

風の流れがなくても空気が拡散してきて混ざってるんじゃないの、と思う方もいるかも知れませんが空気の拡散はそんなに速くなくて、無攪拌条件の場合10mの距離を空気が拡散するのに大体\(10^{7}\)s(4ヶ月)ぐらいかかってしまいます。ということで別の条件を考えます。

窓を開放&扇風機で風の流れを作る場合

部屋の中で扇風機を回して風の流れを作ってやるという方法です。これだと空気はきちんと入れ替わりますし、扇風機の性能から風量も推定することができますのでモデルに当てはめて計算することも可能です。

 


一般的な家庭用扇風機の風量を調べてみたところ、設定を「強」にした場合、約\(50m^3/min\)の風量となることがわかりました。従って今回はこの値を使用します。考える部屋の広さは、上図の通り、今回はうちのリビングの体積\(54m^3\)(13.8帖)とします。

立式

新しい空気の体積で物質収支をとると、部屋の中の新しい空気の濃度C[%](=換気率)を使って、

\[V\frac{dC}{dt}=v(100-C)\]

と表されます。これを解くと、

$$C=100(1-exp(-\frac{v}{V}t))$$

となります。後はここに条件の物理量を入れればOKです。 

結果(扇風機で換気ver)

 

換気率の推移(扇風機使用)

 

 やはり予想通り、5min程度で部屋の空気は充分に入れ替わるということがわかりました。これにて5~10minという事前に得ていたネット情報の裏付けをとることができました。

別のモデル

でもこの扇風機を使う方法、実際面倒臭いですよね。そもそも冬に扇風機出してる人いないし笑

ということで別の方法として有力なのが換気扇を使う方法です!おそらく多くの方のご家庭には台所のコンロ上に換気扇付きのフード があるのではないでしょうか?これを使用した場合どのくらいの時間で換気ができるのかを追加で計算してみました!

換気率推移(換気扇使用)

一般的な家庭用扇風機の風量を調べてみたところ、設定を「強」にした場合、約\(50m^3/min\)の風量となることがわかりましたので今回はこの値を使用します。考える部屋の広さは、上図の通り、今回はうちのリビングの体積\(54m^3\)(13.8帖)とします。

立式

新しい空気の体積で物質収支をとると、部屋の中の新しい空気の濃度C[%](=換気率)を使って、

\[V\frac{dC}{dt}=v(100-C)\]

と表されます。これを解くと、

$$C=100(1-exp(-\frac{v}{V}t))$$

となります。後はここに条件の物理量を入れればOKです。 

結果(扇風機で換気ver)

 

換気率の推移(換気扇使用)

やはり風量が少ない分、換気には時間がかかる結果となりました。充分換気するには20min程度の時間を要することがわかりました。換気扇を使うこの方法の方がお手軽ではありますが、充分換気されるまで窓を開けたまま20minは我慢しましょう。

まとめ

今回工学的なモデル計算を利用して換気にかかる時間を計算してみたところ、一般的な14帖程度のリビングの場合、扇風機を使って換気した場合約5min、台所のフード換気扇を使用した場合約20minで充分部屋の空気を換気できることがわかりました。せっかちな人は扇風機をのんびりな人は換気扇を使いましょう笑

もし良ければみなさんもこれを参考に必要十分な時間で換気を実施してみてはいかがでしょうか?

References

References
1 https://fumakilla.jp/foryourlife/225/
2 https://www.seikatsu110.jp/electrical/et_ventilation/29068/
3 https://kumaposu.com/ventilation-1/
4 https://garagaragara.com/life/health/2345.html
5 http://www.sk-peo.com/skpeo_t_mixing.html
6 http://matse.u-fukui.ac.jp/~suzuki/teaching/idogen/2016print6-8p.pdf